炭鉱に輝く星のごとく | 『ベトとナム(Viet and Nam)』
- 野水

- Dec 1, 2024
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2024 / 129分/ 監督:チューン・ミン・クイ( TRUONG Minh Quý )
/ ベトナム、フィルピン、シンガポール、フランス、オランダ、イタリア、ドイツ、アメリカ

『Viet and Nam』は、2001年の北部ベトナムの炭鉱という閉鎖的空間を舞台に、ベトとナムという二人の若い男性の関係性を通して、国家、歴史、家族構造と男性同士の間の親密さを繊細に描く作品である。名前に国家のメタファーが刻まれている二人の恋愛は、単なる同性愛の描写に留まらず、戦争と植民地主義の影響が残存する社会的文脈において、クィアな主体性がどのように形成され、抑圧的規範に抵抗しうるかを示す物語として位置づけられる。
炭鉱という舞台設定は、ポストコロニアル的な読みを促す重要な象徴である。閉ざされた鉱山空間は、国家権力や社会的規範が個人の行動や表現を拘束する物理的・象徴的環境として機能しつつ、その内部で芽生えるヴィエットとナムの関係は、抑圧的空間における微細な自由と抵抗を象徴する。ナムが父親の遺骨を探すために南部へ向かう旅は、植民地主義的歴史が刻み込んだ社会的制約と家族の記憶の間で揺れる主体の存在を浮き彫りにする。
映像表現においては、アピチャッポン・ウィーラセタクン的な詩的幻想性が採用されており、森の中の人形や、じっと動かずに固まっている人々の描写は、どこか不気味で超現実的な印象を与える。暗い鉱山内での親密な瞬間や、外界に向かう旅路の描写は、現実の抑圧と内面的欲望との対比を際立たせる。二人の関係性は、身体性を通じて社会的・歴史的権力構造に対抗するクィアな抵抗の具体化として機能し、観客に愛の可能性と歴史的制約の共存を示している。
密航は希望を運ぶのか、それとも果てしなき未知と孤独だけをもたらすのか――その答えは、誰にもわからない。
TOKYO FILMeX 2024

